「逃げようとも抵抗しようとも思わなくなった、頭も働かなくて……」

むしろ働かす事を拒む様に。
激動が続き、身体も心も使い物にならなくなっていた。

捕らえられてから日にちはあまり経っていないはずだが、人はここまで憔悴出来るのかという程……
黒川邸で自分達は死んでいったのだ。



「……無理するな」

管原は声を掛けたが、しかし話を再開した反面、咲眞の表情が先程より幾分か和らいでいる。


「で、使い物にならなくなった俺らは研究所に売られた……ってわけだ」

後ろから声。
拜早が壁に身を預けていた。



「…大丈夫か?遠慮すんなよ、たっぷり出していいぞ」
「いやむしろ出したくないし…んな事より、ここ気になる点だよな」

拜早が腕を組みながら咲眞に目線をやる。
咲眞も頷いた。


「…自分達が売られるんだってのは、黒川の幹部みたいな二人の会話から分かったんだけどね…という事は、研究所は被験者をお金で買ってるって事になるよね。一般人と研究所は関わりないって豪語してるのに?」

鋭い目。

咲眞の詰問に管原は一瞬言葉に詰まった態度を見せた。
「売られた……ね」

が、ふっと笑う。

「そこら辺の事情は…俺からはなんとも」


拜早は不審に思って管原に対し目を細めたが、咲眞の方は管原に食い下がっても意味の無い事を悟っているかの様に溜め息を吐いてみせた。

「…黒川のとこが、その研究所の事情を知ってるって辺りも腑に落ちないんだけどなぁ…まぁいいか」

パイプ椅子から立ち上がる。

「ここまでが黒川邸での出来事だよ。後は僕が何を思ったか研究所から逃げて、拜早が残った…以上だね」


「ああ…よーく分かった」

管原が大人の笑いを顔に作った。


「…大変…だったな」




「…うん。で、管原さん」

咲眞は事務椅子に座っている管原を見下ろす。

といっても背が高いなりに座高もある管原と極端に目線が変わるわけではないが。


「こんなハードな話、どうして管原さんにしたと思う?」