蛇の大群の様な電源コード達を下敷きに、咲眞は無表情で天井を仰いでいた。


「おまえ、さ……こんな事直球にする奴じゃないだろ?おまえはいつも一歩先見た喋りでさ…裏を掻くっていうか……それだって……」

趣味だというエンジニアリングは抜きん出た知識と技術ではあったが、人としての常識がないわけではない。

むしろ一番冷静で、客観的で。


「そうだっただろ…?咲眞……」










「人間は弱いものなんだよ、拜早」


淡々、と言葉を紡ぐ。


「僕みたいな奴程人が変わった様になるんだよ…何故って、頭が正常に回らなくなるからさ……」



むくりと起き上がる。

左頬が赤く腫れ、唇の端が切れていた。



「人が変わった例なら…お互いそうだよね……それ相応の体験をしたんだから……仕方ないよ…ね…」




「……」





「…思い出した事があるんだ」




「…何?」












「…僕は、茉梨亜を愛していた」
















「……俺も、だ」











それを聞いて、咲眞はふっと笑った。









「拜早には…助けられてばかりだね……」



「……俺だって、おまえが茉梨亜のかっこしてなかったら…」

「…それ、まだあまりいい思い出じゃないなー」

少しだけ皮肉を込めて言った拜早に、冷めた様に咲眞は返す。







「咲眞……茉梨亜を……殺すな」

命令でも懇願でもなく、拜早はただ、咲眞を見据えて言った。







「……分かったよ」