久しぶりの外の空気はどこか肌寒い感じがした。

見慣れていたはずのBブロックの景色も、何年かぶりに訪れた田舎みたいだと拜早は思う。

拜早にしてみれば、自分の意思を持ってこうして歩くのも約一ヶ月ぶり。



一ヶ月…

まだ管原の半分も生きていない歳だが、一生で一番の悪夢を見たつもりだ。

黒川の使者に見つかってから、全てが堕ちた。


「………」


空を見上げると生憎の曇り空。
自分の心の様…

「わっ」
目線を有らぬ方向へ向けていた為、拜早は目の前に立ちはだかっていた物にごつりと顔をぶつける。
「ったー…なんだ?」
顔を上げるとそれは地区内掲示板。
緑の板にお粗末な画鋲で何枚も紙が貼付けてある。
地域の告知、情報、なんかよく分からない今月の一句、とか。
なかには雨風に打たれ黄ばんでいるものもある。
「あ…」

その中の真新しい一枚の告知に、拜早は必然に目を留めた。


――通称・白の怪物確保


「おいおい…」

拜早は思わず口元だけで笑う。


―――世間を騒がせた白の怪物が、先日見事確保された。
今後は本土で処置を受ける予定……


明らかに嘘である。

「ったく、ある事ない事よくまぁ…これ、管原サンが書かせたんかな」
そんな気がした。
研究所はスラムに関与しないとは言っているが、これはあからさまに研究所が誘導して出させた内容だ。

…その事も当事者達にしか分からないのだが。



拜早はもう一度苦笑して、その場を立ち去ろうと足を踏み出した。

と。

「…白の怪物」
「?!」

不意に後ろから声がして、拜早は思い切り声にならない驚きを見せた。
勝手に引き締まった両肩を下ろせずに恐る恐る振り返る。



「……関根拜早、やっぱりスラムに居たんだ」


そこには…一度見た顔が居た。