あの、咲眞が自覚し、拜早が自分を取り戻した日から一週間が経っていた。

拜早はあれから管原の診療所に居候の様な形になっている。

…と言っても、一日の殆どを拜早は寝て過ごしていた。
今までの状況が極度に精神と身体を酷使していた結果だと、管原が自嘲気味に言っていたのを覚えている。
一日置き…たまに続けて訪問してくる棗の差し入れの食料で管原と拜早は生きていた。

棗は…拜早の解放に驚いてはいたものの、喜びの方が大きかった様に見えた。
管原同様、棗も拜早や茉梨亜、咲眞の三人の仲の良さを知っていたから。


当の診療所の主管原はというと、拜早が来てからは殆ど診療所に居て何かをしている。恐らく仕事なのだろう、机にかじりついてる事が多い。
…もしかしたら拜早を見張っているのかもしれないし、研究所からの訪問者を警戒しての事かもしれない。

しかし拜早が知る限り、ここ数日診療所に来たのは棗と、何人かの患者だけ。

管原が持ち前の気さくな対応できちんと診察していたのを、拜早はごく当たり前の日常として見やっていた。


「昔は茉梨亜と咲眞とでよくここにたまってたもんな…」




簡易水道の壁に掛かる鏡の前で、拜早は跳ねた白い髪を適当に手の平で撫で付ける。

「管原サン、俺ちょっと出掛けてくる」
「……」
座っていた事務椅子を黙ったまま回転させて、管原がこちらを見た。

「あんまり遠くに行くなよ」
「ああ」

管原はそれ以上何も言わず、拜早は診療所の扉を開けていつぶりかの外へと足を踏み出した。