「………」
押し黙っていた公島の後ろから、
「あ…お疲れ様です所長、所長も今回監察されるんですか?」
ふいに声が掛かる。

「?」
公島が振り返って誰?という顔をした。

約160センチの背の公島が少し見上げるくらいの、白衣を着た人物が立っていた。

「いや、私はふらりと寄っただけだ…君達は初対面だったかな?ほら公島君、先日選抜された…」
「壱村(いちむら)です、宜しく」
観崎に促され、現れた人物は公島に片手を差し出す。
短めの橙掛かった茶髪に眼鏡を掛けている…
公島は先日の会議を思い出した。

「初めまして、専務補佐の公島です。壱村さん…貴方がナンバー128ね?」
自分も手を差し出し軽く握手をすると、ナンバー128…壱村は頷く。
壱村を上目使いで見ながら、公島は言葉を続けた。

「今日の実施試験、私も拝見させて頂くわ…でも大変、ね」
「えぇ…大変です」
苦笑した壱村に、公島も少し同情の笑みを返した。

実施試験…実際に身体を使った人体実験だ。

「さて…私はこれから外界で用があるので失礼するよ、壱村君…君の成果に掛かっているからね」

顔の皺を深くして観崎は微笑み、廊下を後にする。
と、足を留めて公島を振り返った。

「そうだ…最近の黒川の行動を聞いているか?」

「…噂では、人体売却を行っているとか…定かではありませんが」
公島が答える。

「ふむ…奴のやっている事が公になるのは考えものだな…」
「は?」
観崎の呟きを公島は飲み込めなかったが、気にするなと微笑まれる。

まぁその時はその時か…
そう小さく呟いて、観崎は去っていった。


「どういう意味かしら」
「………」
眉をひそめた公島だったが、壱村は観崎の去った後を見つめ何も答えなかった。


観崎棋市郎…当研究所の所長であり、外界との秩序を把握する。
無法と思われるスラムを逆手に取り、思惑を進める研究者…