「では、俺はもう行くぞ」

「あぁ…じゃあな、提出頼んだ」








―――眩しさが落ち着いてきた。





いつぶりか、視界がはっきりしてくる……




「よぉ、目が覚めたか」

男が覗き込んだ。


「ぁ……」

男の名前が頭に浮かんだ瞬間、沸々と疑問が溢れてくる。

自分は何故ここに居るのか。
何故寝ているのか。
記憶がやけに曖昧だ。


「管原…サン?」

名を呟いた声が枯れている。寝起きだからだろうか。


(こいつ…意識が)

心中で驚いたのは管原の方。

彼は研究所によって指示通りに動くよう洗脳されていた為、洗脳が濃くても薄くても今まで“本人”の意思は見受けられなかった。

洗脳したては濃く、日が経つにつれ薄くなる。

薄くなってくると洗脳の副作用で意識混濁を生じやすく、研究所が行っていた洗脳指示的に、見境無く人を襲う可能性が高くなる。

その結果が茉梨亜…実際は咲眞の…肩の傷を作る事に繋がったのだが。



第一、研究所が彼を受け入れた時は既に、何があったのかは分からないが、この少年の精神は朦朧としていたはず……

それが今久方ぶりに少年は、管原の名を呼んだのだ。


関根拜早……

白の怪物が、自分の意思を取り戻していた。


「なぁ……ここは…俺、一体…」

「……俺の診療所だ、安心しろ」

薄目を開けて見上げる拜早に対しあくまで管原らしく微笑んで、診療ベッドの横へ適当な椅子を持ってくる。

それにゆっくり座り、管原は訊ねた。


「なぁ拜早、いくつか聞きたい事があるんだが…いいか?」

「…何?」
拜早は少しだけ目を丸くした。


「無理して答えなくてもいいからな」

管原の前置きに拜早は少し口の端を上げる。

「らしくねーな管原サン…疲れてる?」

「おいおい、おまえにまで言われるとは…俺そんなに顔に出てんのか?」

顔をしかめて管原は相変わらず剃っていない不精髭を撫でる。

確かに疲れてるんだろう、なんだかんだで自分は状況に振り回されているし…研究所から出された仕事もある。
まったく。
昔だったら三日ぐらいの完徹なんか余裕だったのに。