「………久しぶり、拜早」

「咲眞………なんで…茉梨亜に……」

立ち上がった拜早も、ゆっくりと問う。




「……綺麗な茉梨亜を存在させたかったから、だよ………まぁ、僕もけして綺麗とは言えないから…馬鹿な行動だよね……」

憂いを帯びながら咲眞は自嘲気味に笑った。


そして…


「…何処、行くんだ?」

廃屋の扉に手を掛けた咲眞を見て、後ろから拜早が口を衝く。


「ねぇ拜早………僕達は弱いのかな……」

「は……?」

逆に尋ねた咲眞の質問に、拜早は目を丸くする。


「今、こんな事になっていたのは……僕達が弱かったからかなぁ……」



「……なわけねーじゃん」

拜早は言った。

「なぁ、弱いとか、そんなんじゃねーよ………運が……無かったんだ………」



その拜早の言葉に咲眞は振り向かず少し笑って……




暗闇の中へと姿を消した。










「うっ……」

残された拜早は突然力が抜けた様にその場に倒れ込む。


全身に小刻みに痙攣が起こっていた。
今までの無理な身体負荷、精神負荷が、正気に戻った拜早を襲う。
筋肉が…緩む。


「くそ……っ」


喘ぎ、そのまま意識が薄くなっていく中で、拜早は目についた空に浮かぶ月を見上げた…


「………」




拜早と

咲眞…

二人の止まった時間が動き出そうとしている。

時間は止まらないものだと当て付ける様に。



時を感じさせる月は、壊れた屋根から身を引こうとしていた―――










茉梨亜編 ―終―