…………。


今何て、言った?



「何…してんだ?」

再び酷く混乱した顔で拜早は問いかける。


「おまえっそんな格好で何してんだよ……!!!」

月明かりがお互いの顔を照らし出していた。

拜早がはっきりと“茉梨亜”の顔を見たのはこれが、今この時が初めてだった。

狂いを帯びていた拜早の瞳が、不可解なものを捕らえたのだ、そして…彼の焦点は定まる。

何かが解けた様に拜早は正気の人格を取り戻した。



「咲眞…何だよそれ……」


(……何言ってるの?)



茉梨亜は首元を押さえながら驚愕している関根拜早を見る。


(咲眞?咲眞が来たの…?)

拜早が言った言葉に茉梨亜は第三者がこの場に来たのかと思った。だが…

(……あたしを見てる)

白の怪物は自分をしっかりと見ている。

自分を見て……“咲眞”だと言った。


「あ…あはは…何言って…」

空笑いした茉梨亜の顔は引き攣っていた。


そう、自分は茉梨亜。

茉梨亜なんだ。


「あたしは茉梨亜よ!!!」
「何やってるんだよ!!!おまえあそこから…研究所から逃げたんだろ?!それから茉梨亜になって生きてたのか?!」
拜早の言葉が痛く頭に刺さる。痛い。
「五月蝿い!!あたしは……あたしは………」
あたしは茉梨亜。汚れていない茉梨亜なの。
「茉梨亜なのぉ!!!!」
「馬鹿かおまえ!!おまえは咲眞だろうが!!」


茉梨亜の叫びが、拜早の罵声が響き渡る。

息切れし、茉梨亜の目からは大量の涙が溢れ出していた。

「あた…っあたし………」
綺麗な茉梨亜。あの汚れてしまった茉梨亜の替わりに、綺麗な茉梨亜を作りたくて………

「ぃやぁぁあああ!!!!!!」


何これ、何だこの気持ち…
意味が分からない!

「咲眞…」

「咲眞じゃない!!五月蝿い!!あたしは茉梨亜なんだ!!」

そういった茉梨亜は既に声が涸れていた。
涙が後から後から溢れてくる。

何故?

どうして?


悲しい

嫌だ


「うわぁぁぁあああ!!!!!!!」



茉梨亜はついに錯乱した。