「ぁあ……」

行ってしまう、白の怪物が……


「茉梨亜?!」
思わず管原は叫んだ。

茉梨亜も駆け出していたからだ。


「(聞かないと……どうして茉梨亜を殺したいのか聞かないと!!)」

茉梨亜は自分に関係あるはずのない、追わずともよい理由をこじつけて白の怪物を追い掛けた。

つい今自身が感じた恐怖を後悔したくせに、ただただこのもどかしさの先に進みたくて……





「…管原、どうする?」

現状に勅使川原が問い掛ける。

「ナンバー443が逃げた方は廃屋が入り組んでいる。下手に隠れられたら捜索は難しいぞ」

「……」

管原は難しい顔で思案していた。

あの二人を邪魔したくない。なにより茉梨亜を後押ししたのは自分だ。

しかし……

賭なのだ。
拜早が茉梨亜を殺すか、真実を話すのか……もし是が非でも殺そうとするならばそれは避けなければならない、もし正気に戻った時の拜早の為にも。

だがあの拜早の様子では……


「それに管原、443を追ったあの民間人の子も危険だ」
「分かってる!それに…勅使川原、あの民間人は逃げたナンバー445だ、一応伝えておく」
管原が早口で言った単語に、勅使川原は流石に眉を上げた。

「そうなのか?445はあんなだったか?」
「………」

管原は険しい顔をしながら、思案を振り切って例のジャンパーを着た男達にテキパキと指示を示しだした。

























赤く燃える夕日はもう微かにしか残っていない。

東の空から夜の帳が迫っており、空高く薄幸の様な存在感の無い月がこちらを見ている。




ある廃屋。



この中に白の怪物が逃げ込むのを茉梨亜は見た。


極端に走り続けたせいか、呼吸は荒いが気持ちは落ち着いている。

いや、麻痺してしまったのかもしれない。

走った後の汗と、妙な冷や汗が茉梨亜の額を占めていた。



「…入ろう」

意を決して、茉梨亜は少しだけ開いていた廃屋の扉のノブをゆっくりと引く。


鈍い木造の音が響いた。