「この間、上に掛け合ってみたんだ。……ナンバー443を使ったデータ収集、そろそろ止めないかって」

「…俺がこの前潮時だとか言ったからか?」
煙を吐きながら管原は目を丸くしたが、塔藤はなんでもない様に笑った。

「そうだよ。まぁ俺も勅使川原も思ってた事だからね」

塔藤は柵の上に上半身をだらりと乗せながら自嘲する。

「民間人データとナンバー443という人材に一番関わってるデータ収集班の意見って事でね。上層部も納得した。……というか」

「というか?」

付け足した様な塔藤の言葉に管原は思わず塔藤を見やる。

「実はデータはもういいかなってなってたんだってさ。性別と年齢にばらつきがあれば、二桁採れれば充分……実際拜早君が採ってきたデータは11人で、今また彼はスラムに出てる。次…12人目を採ったら、ナンバー443を使うのは終わりにしようかって勧崎(かんざき)さんも考えてたらしい」

それを聞いて、一瞬ぽかんとなる管原。

そして軽口を叩く様に口を開いた。

「……はは、被験者が物扱いだな、結局進行の過程の一部に過ぎない…か」

「………」

塔藤は何も言わない。


「うぅわ、笑える……まぁ俺もそこに関わってるってのが特にな」


クッと笑った後、管原は眉を顰め。


「ックソ!!」

思い切り白い鉄柵に向かって拳を振り下ろした。
鉄の、重く響く鐘の様な音が鳴る。
珍しくも管原は声を荒げていた。



「管原、特効薬が出来たらナンバーの皆も解放される……それまで後少しだよ」


「あぁ…分かってる」


自分は研究所の人間だが、研究所のする事は酷い事だと思っている。

だが逆に、犠牲を払わないと掴めないものがある事も知っている……



「戻ろう管原、まだ仕事はあるよ」

「……そうだな」


少しだけ諦めた様に返事をし、管原は火の消えた煙草を握りしめた。