「この部屋大きいけど……シャッターの向こうまで続いてないかな」


咲眞の言う通り、わざと部屋に入ってシャッターを内側から越え、再び廊下に出るという事は出来そうだ。

……しかし。

「でも咲眞、硝子ばっかでドアがないわよ?」

「扉はシャッターの向こう側に一つだけ…という事かな、この部屋は」
折笠がふむと指先を口元に添える。

「どうしようか、硝子割ってみる?」

折笠は勿論冗談で口にした。
しかしスラム育ちとスラム馴染みの少年少女にとって、その発言は一つの手段として受け入れられてしまう。

「それしかないわね!やるわよ咲眞!」

「!?」
折笠の目にジャキンと安全装置が外された銀の銃が飛び込む。

「待って茉梨亜、テープで固定してから。あと銃は弾勿体ないから控えて」

そんな少女を普通に制し、少年は懐からガムテープを取り出した。

「なんで、銃なんか……君達一体何者なんだい?」

その唖然とした問いに茉梨亜は首を傾げる。

「何者って、フツウのかよわい女の子よ?」
「そうそ、フツウの男の子」

フツウの女の子が拳銃持っていて、フツウの男の子が手際良く硝子にテープを貼っていくものだろうか。
はははそんな馬鹿な。

直径50センチ程の円型にペタペタとテープを貼り終えると、咲眞はその中心に妙な黒い固形物を付ける。
手の平にすっぽり納まりそうな黒いそれ。

「ちょっと離れててね」

黒い物体の小さな突起を指で押り、咲眞は一、二歩下がる。
と、ピッピッと微かに高い機械音が鳴り、次の瞬間には

「!」

ドン、という低い音が耳を揺るがし、それと同じくミシ、と硝子が振動する空気。


「出来た出来た」
少年がガムテープの中心に拳を当てると、その円状の硝子部分は鈍い音を立てて部屋側に落ちた。

「咲眞凄い!」
「一応足元気をつけてね」

バキバキと周囲の硝子を蹴って穴を広げる。
咲眞が先に入り、茉梨亜の手を取って更に部屋に引き入れた。