「じゃ……じゃあ拜早は一階に居るのね!」

「たぶんね。入口が一階なだけかもしれないけど」

「で、で、この研究所は表向きはSTI……つまりセーカンセンショ…」

「性感染症、ね」

「それそれ。えっちしてなるビョーキでしょ?」

「まぁね」

「の星乾症ってヤツの研究してて、でも裏では実は人間をスーパーマンにしちゃう実験をしてるってわけね……!」

「……まぁね」

「ん、なによ咲眞、変な顔で見て」

茉梨亜の言い方だと今にも拜早は空を飛びそうだ。


咲眞は一息吐いて説明を続ける。

「シアが言うには、ナンバーの350くらいまでがSTIの被験者だって」

「!」

その言葉で茉梨亜は思い出した様に目を丸くした。

「それ!塔藤さんが言ってた!星乾症に関わった人は400人に満たないとかなんとか……」
この話題のお陰で正体がバレたんだけど、という事実は飲み込んでおく。

……それを踏まえると、およそナンバー350以降の被験者は公式的に非公開という事か。


「ね、ね、咲眞!」

「なに?」

研究所は白い壁に無機質な廊下が延々続き、しかも階段のある場所は各所で違う。
誰に会うか知れないエレベーターを使うわけにもいかない。

壁に掛けられたマップを見つけなければ、確かに茉梨亜が迷いに迷っていたのも分かる。


「シアってどんな子?」

唐突に茉梨亜が尋ねる。
心なしか彼女の表情にはわくわく感が……

「は?どんな子って言われても……」

「だってあたし会った事ないもん!かわいい?」

何故そんな事を訊くのかと咲眞は疑問符を浮かべながら眉を寄せた。

「さぁ。かわいい方なんじゃない?」

把握した事も無かったのでそっけない返事になってしまう。
が、その答えは茉梨亜にとって面白くないらしい。

「……例えば茉梨亜の顔をかわいいに当て嵌めるとしても、茉梨亜とシアではタイプが違う気がするけど……」

「何それ、女の子なんでしょ?ちゃんと見てあげなよ」

言われて咲眞はきょとんとしてしまった。

「あれっシアって女の子…なのかな」

逆にそう返され茉梨亜は廊下に躓きかける。