「管原って、あの研究員…ね」

「シア?弾くんを知ってるの?」

どこかしら妙なそぶりを見せたシアに、茉梨亜はきょとんとなる。


「…うん、まぁ」
「そーなんだぁ、弾くんって、何故かあたしの名前を知ってたの。白の怪物もあたしの名前を知ってたし……世の中謎よね」

茉梨亜は唸ってみせた。
ほんとに、最近は不思議な事が多い。


「………」

シアは何も言わなかった。



「そういえば」
口を開いたのはシア。

「白の怪物が逃げたの、怖いよねぇ」

「え?」

茉梨亜は思わず聞き返した。

一瞬信じられなかった。

「ぇ、え?逃げた……の?」

あんなに怖い目に遭ったのだ。
雨の冷えではない。
聞いただけで背筋がぞっとした。


「ほんとに?!」
「ほんと。スラムのどこかに潜んでるって…今凄い噂だよ、知らなかった?」

茉梨亜は口をあんぐりと開ける。

「…で、でもでもあんな危険な奴ならスラム外で牢屋に入れるとか…」
「なんか、外に連れ出す前に逃げ出したらしいよ。ヘリに乗せる途中とかで」

「………」

茉梨亜は押し黙ってしまった。

また一人でフラフラ歩いていて、もしあいつに会ったら……




「…白の怪物って一体何がしたいのかしら」

茉梨亜が俯き加減に呟く。

そんな茉梨亜を心配そうに見上げながら、シアは言った。


「精神異常だって言ってる人結構いるよ。それに、事件を起こす前に彼を知ってる人もいないんだ…一体どこから来たのかも謎だって。まぁ、わざわざ調べる人もいないんだけどね」

「……」

どこから来たのかも謎……

じゃあ“茉梨亜”との関係は?


『白の怪物に会えばいい……』


今日の夢のあのフレーズが頭に響いた。





「ぁ、ね、シアも診療所に一緒に行く?」

ぱっと茉梨亜はシアへと振り向く。

「弾くんには変な事させないしっ」

「うーん残念だけどボクは家に戻るよ、濡れたままいるとほんとに風邪引きそうだし」

シアは申し訳なさそうに笑った。


「あーそうだよね、帰ったらあったかくしてねシア」


茉梨亜とシアは調度診療所の前で別れた。