「この事は上に報告しなければならない。俺は管原と違って君達の肩を持つ関係でもないからね」

塔藤が扉のノブに手を掛ける。
見ればノブに鍵らしき物は付いていない。つまり……

(外から鍵を掛けられたら終わりだ…)

躊躇している暇は無い。
ギリと歯を食いしばった律子は、後ろから素早く塔藤の手首を掴み込んだ。

「!?」
「すみません、でもここで捕まるわけには…!」

こんな場所で足止めを喰らえば、出来るはずのものも出来な――

「駄目だよ、子供の君が大人に勝てると思う?」

瞬間、塔藤自身が反転し、反動で律子が掴んでいたはずの手首は外れてしまう。
「!?」
「ほら、大人しくしてて」

逆に手早く律子の右腕が取られ、自分の背中に捻り上げられた。

「く!!」
「おかしな事しなければ痛い目見なくて済むよ」

「……分かってる」


ぽつりと漏らした律子の、捕らえられていない左手が揺れる。

「大人相手に真っ向じゃ勝てない事は分かってる。だから……」

「っ!?」

律子がどこからか取り出し手に掴んだのは黒い物体。
態勢的に狙いが定まらなくても“相手に押し付ければ”なんとかなる。

「くッ!」
突発として身を離したのは塔藤の方だった。同時にバチリと電流の弾ける音。

「スタンガンか?どこからそんなもの…」

妙な感心と驚きが混じった塔藤の反応の隙、律子はもう一発と黒い小型スタンガンを突き出した。
「!」
塔藤の纏う白衣から瞬間焦げる臭いが飛ぶ。

「ッ」
短く息を衝いた。手応えはあったが、

「君、容赦ないね…」

白衣にスタンガンを押し付けた瞬間、律子の身体は塔藤の手で押し返されていた。
瞬間接触だけではこのスタンガンの威力は発揮出来ない。

……しかし相手を怯ませた事は上出来だ。

(逃げないと…!)

律子は無防備になった扉を開き、その場から勢いよく飛び出した。