そんな目付きの対象を尻目に、塔藤は律子から潔く身を離す。


「君はいくつか重大なミスをしている」

「……ミス」


小さな白い部屋。

扉は一つだけ。その扉の方向へは塔藤が立ちはだかっているので、事実上“逃げ場はない”。

「……」

律子は微かに舌打ちを漏らした。

……恐らく既に塔藤が“律子を疑った”からこそ、この部屋に誘導されたのだろう。


律子の目には焦燥が現れ出し、反して塔藤には明らかに余裕があった。

「実際こうしてみると感心するね。どこからその子のID手に入れたんだい?」

律子は塔藤の問いには答えない。

「……よく分かりましたね」

「ミスがあったと言ったろう。決め手は人体実験という発言と、400人という数だ」

「…!?」

「新入予定社員にはね、星乾症の人体実験の事までは公開されない。どこまで研究が進んでいるか、なんてのは此処にいざ入ってみないと分からないさ。例え予習が好きでも、ね」

「でも……」
律子から困惑の表情が漏れる。

「まぁ、それが何かのコネで掴んだ情報だったとしよう。でもね……君が言ったナンバーの数が決定打だ」

塔藤は少し肩を竦めて見せた。

「……どういう、事ですか」

「星乾症に協力した人数は、400人に満たない」

「え!?」

思わず律子は声を上げる。

「そんなわけない……だって」


400人に満たないわけがない。

そうなると、ではあの数は……



「話は終わりだ。君はここに居て貰うよ」

「!」