―ユージェニクス―

その小さな問いに、塔藤は慣れた風に説明を入れる。

「症状をつけたマウスからが通常だね。サンプルを投与して陽性なら次のテスト対象へ……まぁ他の対人薬品精製と同じだよ」


今研究自体がどこまで進んでいるのか、律子にはまだ分からない。
……しかしサンプルの「テスト」は、マウスどころか既に人体投与まで行われている事を律子は予習で知っている。


「……あたし、色々勉強してきたんです塔藤さん。テストはもう人体実験にまで進んでいるんですよね」

「……!?」

そう律子に見上げられた塔藤は、明らかに目を丸くした。

「……よく、知ってるね」

「はい。もう400人程テストをしているとか……それなのにまだ薬が完成していないなんて、星乾症は凄く難しい病気なんですね」

むぅと口元に手を当てて唸る律子。


……そんな発言をした新入社員を、塔藤は明らかに眉を顰めて見下ろした。

が、その表情はすぐに取り払われ、元の柔らかなものに戻る。

「……確かに難しい病気だね。星乾症がここまでやっかいなものになるとは正直僕も思っていなかった」

「はい、私もです……」


そこで塔藤は微かに目を細め、律子に研究室を出るように促した。

「少し休める所へ行こうか。移動しながら他の説明もしよう」