いつもと変わらない筈の日中。


ブロック各地の掲示板には、白の怪物に注意を促す貼り紙が貼られていた。


拜早はそれをじっと見つめた後、無表情に背後を振り向く。


「…何か用すか?」


「いや、ちょっと頻繁に君を出し過ぎたなと思ってね…」


そこには髪のセットが不自然な一人の男が立っていた。
無難なスーツを着ているが、研究所の人間だろう。


「まったく失敗だよ。髪を採ってくるだけじゃ不自然だから適当に暴行を加えて誤魔化そうとしたのに…」

男は不機嫌そうに顔を歪める。

「ま、それは洗脳班のミスか。暴行してから身体の一部を頂きたかったんだが、逆の洗脳になっていたから……」

聞いてもいないのに一人ブツブツと言葉を漏らしている。

「髪採った後に暴行したら、そりゃ“髪の毛ちぎられた!”って言われるに決まってる。まったく、なんで重要な洗脳でミスるんだ、もし民間人にバレたら……」

「なんなんすか、あんた……」

凄く無駄に独り言を聞かされている気がして、拜早は話を遮った。

「ん?僕かい?…分からないの!?」

「……分かりません」

「まっそれもそうか、君は頭の方があまり宜しくない」

「……」

「おっと気を悪くしないでくれよ、別に君の頭が悪いなんて言っていない。あくまでも」

言い方がいちいち癇に障る男だ。
しかもやけにオーバーなポーズを作るのが癖なのだろうか。

「君はメンタルの面がやられていてねぇ。記憶に混濁と部分的欠如が見られる。今朝の事なども覚えてはなかろう?」

「今朝……」

言われるがまま記憶を探る。
朝何をしていたか…

「……分からない」

「だろう!君は今、物事を覚えておく事を無意識に拒否している。過去に何があったか知らないが……兎に角そういう事なのだよ」

…で、結局この男はなんなのだろうか。