「……でも、ヘンなのよね……」

……逃げられないのが当然の屋敷だった。
そう思っていた。

精鋭も居たし、体も疲弊していた。
何より頭で何かを考えるなんて出来なかった。

そうしなければ自分は汚くて汚くて、それを認識した瞬間壊れると思ったから。

でも、いっそ壊れてしまえば良かったのかもしれない。

……けどそれは汚い自分から逃避する事で。

汚い、という意識だけは、どんなに意識が朦朧としても持っていたかった。

縛られる事で咎を背負っているのだと、自己満足したかっただけかもしれないけど。


 『マリア』

「……」

それでも気になる事がある。

屋敷を出る直前に峯と高城、紀一と合流した時。

峯と紀一が話をしている間、茉梨亜は高城に声を掛けられた。

なぁに? と返すと

 『マリアは悪くないヨ。ココから逃げらレなかっタのは、黒川サマがイロイロしてたからだカラ』

 『?』
高城の意図が読みづらくて茉梨亜は首を傾げる。

 『イロイロって…それは』

 『黒川サマ、あそこと協力シテるカラ』


――。



「……研究、所?」

膝を抱え、小さく茉梨亜は呟く。



護送車はガタガタと揺れている。

中に居る誰もが金も無く、帰る家も無かった。

だから保護地区に送還される。

研究所が聳え立つあの場所に。