「咲眞……あの人すげぇ」

仕切りを越えた拜早の第一声がそれで。
咲眞にしてみれば「何が?」と首を傾げるしかなかったが、拜早の綺麗に包帯が巻かれた患部を見て軽く納得する。

「こっちも終わったよ。咲眞君…残念だけどこれ、痕が残るかもしれない」

パチンと包帯を止めて言った塔藤の言葉に、咲眞は少しだけ目を丸くしたが。

「別にいいよ、女の子じゃないんだし」
軽く笑って服を羽織る。

垣間見えたのは肩に巻かれた包帯。
白の怪物に刺されたものと同じ箇所……

なんだか何も言えなくて、拜早は包帯に関しては黙っていた。



「……あれあれ?なんか二人共固くなーい?勅使川原がブアイソで怖いからびびったのかな」

「塔藤……適当な事言うな」
処置の後始末をした勅使川原が仕切りから出てくる。

「うんそーなんだよ〜怖いよね〜」
あっけらからんと冗談なのか本心なのか分からない事を言いやがった咲眞の隣で拜早は固まった。

「さ、咲…なんて遠慮のねぇ奴…」
「あははてっしー筋金入りの元ヤンだから、愛想笑いとか柔らかい言葉出来ないんだよ」
内心戸惑い中の拜早に塔藤はいらない追い打ちを掛ける。

「元ヤンって……」
「だからそんな口調で誤魔化してるんだよね?」
「塔藤…」
勅使川原の発したそれが「黙ってろ」の代わりになっていた。

「へぇ、でもなんでそんな人が医者…ていうか研究員してるの?」

興味あり気に咲眞の表情が笑う。
それを塔藤は苦笑して受けた。

「親の敷いたレールってヤツだよ。まぁ俺もそうだけどさ……そいえば、君達の両親はどうしてるの?」


無遠慮な質問だと分かっていながら塔藤は悪気無く問い掛けてみた。
スラムに居るという事はどんな形にしろ、家族と縁が無い事を表しているのだが。