「……おまえはどうなんだ、峯」

「アハハ、アタシなんか本能で生きてるから参考にしちゃダメ」

笑って、少し顔に影を落とす。

「結局ね、あったかいものには勝てないのよ。ガチガチに凍ったものも絶対溶かすんだから」



「……何が凍ってるんだ?」

真顔で返された為流石に峯も溜め息を衝いた。

「紀一、アンタ馬鹿だろ」

「なんだと?」
「きゃー不機嫌な顔もステキよぅ!」
「おまえとはやってられん…」

そうして高城も追い付き、三人と取り巻く捜査官達で玄関扉をくぐる。


外は闇の中、巨大な白熱灯の白い光で迎えられた。












「結局、こうなりましたか……」

報告を聞き、男は深々と自分の特等席に背を預ける。

研究所から黒川邸は多少離れているが、それでもこのスラムの夜に似つかわしくない白い明かりが目に入っていた。

窓の外を一瞥し観崎は目を細める。


「ま、よく働いてくれたとは言いましょう黒川さん。しかし貴方は外でも此処でも有名過ぎた……」

誰に言うでもなく初老の男は呟く。
その顔にはそれでも、黒川に対する労いが現れていた。


「時に、同席を願い出た研究員とやらは分かりましたか?」

空への問い掛けに現れたのはオリーブ色のスーツを着た女性。

「いえ…ですが、長身の男と眼鏡を掛けた男の二人だと」

公島は事務的に返答する。


「やはりあの班ですか。……これは釘を刺しておく必要がありますね」

「…本当にそうお考えですか?先生」

口の端を上げつつも冷酷な声色の観崎に、公島は困惑を見せた。
「まだ、何をするでもないと思うのですが……」

「何かあってからじゃ遅いんですよ公島君。彼らは独自で動くクセがありますからね……ふむ」

一度思案する様に言葉を切り、観崎は公島を見据える。


「壱村君を呼んで頂けますかな」

「? あのナンバーの、ですか?」

「ええ。“釘”です」

そう断言し、施設所長は笑みを浮かべた。


「最後の仕上げです。横槍を刺されるわけにはいきません」






黒川邸突入編 ―終―