―ユージェニクス―

「例え国から許可された『研究』と言えど、不味いですよ……観崎さん」

いや、結論はまだ早い。
粉が小麦粉の場合だってあるのだ。

「…ともあれ、今回の私の出番はこれまでですね。この件で観崎さんに火の粉が降り掛からぬ事を祈りましょうか」

日堀は目を細める。

微笑みは役人。

秩序を護るのは法。

皆の仕事の終盤をご苦労様と言う様に、

最後に保護された黄土色髪の少女を見送った。













――少し前。


「はっこんなの持ってたら回収されちゃうじゃない!」

黒服は警察が来たと言った。
なら拳銃(これ)を持っていたりなんかすれば、取り上げられるに決まっている。

「どっどうしよう!」

茉梨亜は挙動不振に紀一の部屋を見渡す。

屋敷内に隠しても、きっとここは捜査されて見つかってしまう……第一ここを出ればもう自分は戻ってくる事はない。

折角咲眞が届けてくれた銃。
これで護ると決めたのに、安易に渡すわけには……


「そ、そうだっ」

咄嗟に駆け寄ったのは金縁の長い窓。

開けなくてもここから黒川邸の庭が見え、警察が取り巻いているのが分かる。

「こんなに来てるの……」

思わず青ざめた。

ここは、酷いものだった。
だが、警察に掛かれば黒川も精鋭も、紀一だって…

「捕まる、の?」

警察というものがどんな事をしてくれるのか茉梨亜にはいまいち解らない。
しかしこれで、黒川邸は解体される……そんな確信がした。


「……とのんびりしてる場合じゃない!」

留め具を外して窓を開ける。

この部屋にも警察は来るだろう、なら悠長には出来ない。

「大丈夫、あたしなら届くわ茉梨亜!」

そう自分に喝を入れて、茉梨亜は握りしめた銀の銃を大きく振りかぶった。

「……ッや!!」


それは勢い良く投げ飛ばされ、一瞬にして窓枠を越え警察達の遥か頭上を飛び屋敷の庭を跨ぎ……


――ドザザッ



黒川邸敷地外。

空が闇色に変わっていく中、木々の茂みに落ち込んだ。


「……ん、あそこなら大丈夫よね、取りにも行けるし…」

後は敷地外まで警察が調べない事を祈るだけ。