喧騒の中の二階廊下。
こうして見ると二人はこの場に不似合いな存在だった。

急く事も焦る事もなく、少年達は廊下を歩いている。

「……咲眞、あの爆弾本気で使う気だったのか?」

口に衝いた問いは頭で疑問として浮いていた一つ。

「あぁアレ?ほんとは交渉用にしようと思ってたんだよ」

それを咲眞はなんとでもない風に答えた。

「茉梨亜を返してくれないなら屋敷を爆破するとか言ってさ」

「まじでか…」
もう犯罪的な交渉の仕方だ。恐ろしい。

「でも僕も茉梨亜の言い分にカッとなって……ついあんな事に」

「あれカッとなってたのか?全然分からんかった」
咲眞が起爆スイッチ〜などと言っていたのは怒っていたからなのか。
相変わらずこの相方は、一筋縄じゃいかない性格をしている。

「爆弾本体は警察の人が勝手に見つけてくれるでしょ。黒川の屋敷のモノにされるだろうし、僕に手は回らないよ」
あははと軽く笑う咲眞は確信的に物事を考えていた様だ。
それを拜早は、こいつが味方で良かったなどと真面目に思う。


そして、

「……あの銃」


もう一つの問い。

……問いと言うよりは微かな不安を、

「茉梨亜に渡して良かったのか」

少年に投げた。


「……」



咲眞は表情を動かさず、口もつぐむ。






 『自分で死ね』


  ――少女は銀のそれを掴んでいた。

  そして頭を横切る言葉を受け止めた。


  「…やっぱり、優しいのよね、拜早」


  どうしてそう思ったのか。

  咲眞を人殺しにしなかったから?
  弱い自分を叱咤した…と思いたいから?

  「……うん、たぶん合ってる。だって拜早の言葉だもん」


  両手の中に柔らかく銀を包み、小さな重みを感じる。

  馴染んだ形態。警官が持つ同等の型、38口径は、酷くしっくりと茉梨亜の手に納まっていた。


  (あたしは強くない)

  弱い。

  強かったらこの武器で頭を打ち抜く。

  自分で自分の幕を下ろす。

  けど、それは……解放される事でもあるのなら。

  なら……

  これで、この銃で……