豪華なクリーム色の観音扉に、金色の唐草文様が散りばめられている。

……ここは。


「いかにもって感じだな」

管原は躊躇する事なくその扉のノブを捻り、中へと足を踏み入れた。



中もやはり豪華な装飾で彩られ、華奢な足のアンティークテーブルや木彫りの棚が並べられている。


「……っておい、これ」

入り口に立つ管原の、すぐ壁際に弾痕。


そして目前、縦長に嵌められた窓脇の下……磨かれた床には。


「……黒川」


屋敷の主、黒川大介が意識無く倒れていた。


「本人の部屋だろうな…この懲りよう、他の部屋とは豪華さが違う」

「だな。まがいどころかまさに成り金だなこいつは」

それぞれ感想を漏らす中、ツカツカとそれに歩み寄ったのは監視役の警官。

俯せになっている黒川を簡単に調べ、肩に常備された通信マイクを外部に繋げる。

「……黒川大介を発見。ただし、何者かに襲われた模様…気絶しています」

警官はマイクの向こうと報告を取り合っている。
相手は日掘か警部だろう。


「……よっし今だ勅使川原」
「ああ」

二人にとっては監視役が黒川に気を取られている今が隙。
監視役と言っても彼も優先すべき任務は黒川邸の制圧のはず。

警察の仕事は彼らに任せておけばいい。二人にとって今黒川が捕まる云々より、大切なのはこの部屋が“黒川大介の部屋”である事。

「ボスの部屋なんだ、ぜってーある!」


“調べ物”…いや、二人の様子からしては“捜し物”かもしれない。
管原と勅使川原はここぞとばかりに黒川の部屋を物色仕出した。

「……」

それを、やはり監視役の刑事は見逃してはいない。

しかし日堀に何を指示されているのか、白衣二人が部屋を引っ掻き回してもただ一瞥をくれるだけであった。


「あれはあれで怖ぇなぁ」

監視の態度に管原は苦笑を漏らす。

「むしろ好都合じゃないのか?」

「いんや…後で日堀に突かれるだろうな、俺達。絶対」

それを承知の上で一緒に潜入させて貰ったんだ、と勅使川原が無愛想に言った事は、確かに管原も承知していた。