――黒川邸、一階廊下。



「くそっなんで……」

黒服達は突如屋敷に現れた存在達に困惑していた。

それらに抵抗しようとするものの、しかし呆気なく捕らえられてしまう。


「グッ!」
「大人しくしろ、おまえ達全員逮捕だ」
業務的な低い声色で、彼らは次々と黒服を確保する。

「なんなんだよ!なんでスラムにッ」

もっともな疑問だろう。
今まで全く関与なく、俗世間から孤立していたと思われた民間保護地区。
通称スラム。
そこで頭角を表していたはずの黒川大介の屋敷に今、

「どうしてサツがいるんだよ!!」

大量の警察と捜査官が突入していた。


「罪状は貰っています。抵抗は不可ですよ」

淡々と銀縁眼鏡の男が言い放つ。

「だからなんでおまえら外の奴らが…!!」
「話は後程じっくり聞かせてあげます。……連れて行きなさい」

「はっ!」

一人、また一人と黒川邸の精鋭が捕らえられていく。

それは黒服のみならず、各所で身を潜めていた女達も同様であった。

後に各自細かな調べが上げられるだろうが、性的行為に対し報酬を貰うシステムの黒川邸内において、基本的に女達も違法なソープ嬢と変わりない。


「日掘さん、あの研究員達の姿が見えませんが…」

捜査官のリーダーらしき男が銀縁眼鏡の男に訊ねる。

日掘と呼ばれた男は細身にグレーのスーツ、どこか皮肉的な笑みをして口を開いた。

「例の“調べ物”とやらをしているのでしょう。見張りは付けましたから問題ありません」

「見張り?そ、そんな私に報告もなく…」

ただでさえ淫猥なこの屋敷に、心持ち憤りを表す捜査官の男。
それを宥め。

「まぁまぁ、警部さんの手を煩わせるわけにもいきませんから」

言って、日堀は辺りを見渡す。

豪勢な廊下、無駄に黒いスーツを着こなすスラムの住民達に、淫らな装いの女達。

「収容人数も半端ない事でしょう……まったく、一角とは言え保護地区がこの有様とは、人として歎きますね」

落胆の声色は本物だろう。

日掘はしばし周りの動きを見定めてから、警部の男を連れ一階を後にした。