紀一が高らかに嗤う声は不気味だった。

この部屋が異質に思えるくらい。
人が全て異物であるかの様に。

嗤い続けるそれは茉梨亜を混乱させ、拜早の怪我の痛みを麻痺させ、咲眞の機嫌を更に損ねた。

「……銃があるね」


カラリと渇いた音が鳴り、咲眞の靴は紀一の手から離れたそれに触れた。


咲眞が視線を動かすと、茉梨亜の後ろ、らしくもなく床で動けないでいる友人。

「……やられたの?」


ゆっくり銃を拾い上げ、面白くなさ気に拜早を見やる。

「……」

拜早は頷かない。
目線だけ交差し、何かを咲眞に問い質している様だった。

「本当に、本当か」

言葉は出さずともそう投げ掛ける拜早の表情を受け取った咲眞は、ふいに人間らしい顔付きに戻る。

そして茉梨亜を一瞥。

「……っ」


血の気の引いた茉梨亜から拜早へ視線を戻し、両肩を竦める動きをしてみせた。

それは、「さぁね」
と言った動作だった。

「……はぁ?」

思わず拜早は間抜けな声を上げる。

咲眞が何を感じ取っているのか一気に解らなくなった。


「……でもこれだけは言える」

ふと咲眞は口に出す。

「僕は怒ってる。拜早がこんなになって、茉梨亜はマザコンみたいな奴と同じ部屋にいるし」

さり気なく銃を握り直し、咲眞が鋭利に睨んだ先は

「は……!」

まだ嗤いが収まらない紀一だった。

「ふん……なんだ少年、やるのか?意味は無いと思……」
紀一の言葉を最後まで聞かずして、咲眞は一瞬のうちに間合いを詰める。
「!?」
『ガゥン!!』

間近で放たれた銃弾の狙いは紀一の足。
それはスーツの布をちぎらせただけだったが、咲眞の思惑通り紀一のバランスを崩させた。
「ッ!!」

ドスンという音が床に響く。

不意打ちに足を覚束なくされた上、正面から咲眞の重心が乗せられれば流石に紀一も倒れざるをえない。

磨かれた床の上、少年に仰向けで押し付けられた。