応戦するには投擲物くらいしか出来ないが、しかしシャープナーナイフは既にストックが少ない上命中したところで効果は薄い。
実際あれは威嚇、目眩まし用だ。

(やばい、な……)


ならもう無理矢理身体を動かすしかない。
そうでもしないとここまで来て茉梨亜を連れ出せない事になる。
大体黒川邸でこれだけ暴れたのなら、捕らえられた時点で終わり。今度こそ咲眞共々何をされるか解らない。

(後ろには絶対引けない…)

この屋敷に乗り込み穏便に済まなかった時点で、前に行くしかなくなかった。

もとより後退なんて選択肢は無い。

決心してここまで来た。

これで茉梨亜を連れ戻せなかったら、いつ連れ戻す!?


(足……)

相手は銃だ。
このままではどのみちやられる。

(――これぐらいで固まるな)


「ッ!!」

瞬間、紀一に向かって飛び出した。


「なっ!?き、君は考え無しか!!その足で動くとは!!」

構えられる銃。
しかし拜早の不意の跳躍は紀一の反応を遅らせた。
「!!」
拜早の手で弾かれた銃は綺麗に宙を舞う。

「クソッ」
「―!!」
紀一が辛うじて体勢を立て直した瞬間、拜早の足は悲鳴を上げた。
「はっその足じゃ今のが限界だろ!?」
隙だとばかりに繰り出される紀一の拳。
それは避ける術の無い少年を問答無用で捉えた。

「ガッッ!!」


喉から弾かれた音が鳴る。

「――ァ」


口の端が切れ、頬は赤く染まった。

しかしそれは拜早の顔面ではない――


「まっ……」

「……痛」


「な、んで」


止まった。


両者が


対峙していた拜早と紀一が止まった。


二人の間。


白髪の少年を庇う様に、華奢な少女が立ち塞がる。

「…………」



「茉梨亜!!!」
発狂に近い声を上げた紀一は、殴ってしまった少女の肩を抱いた。

「茉梨亜?何してるんだ…何を!!!」

「き、紀一……」

殴られた左頬を押さえ、茉梨亜の身体はふらりと揺れる。
茉梨亜の背後には一瞬の事に呆然とした拜早。

「…茉梨、亜?」