「弾ー!生きてるー?!」

勢いよく診療所の扉が開き、ヒールを鳴らしながら入って来たのはOLの様な女性。

「なんだそれ、俺が飢え死にしてるみたいに……」
「あっ大丈夫なの?じゃあこの差し入れは要らないわね〜」
玄関口に仁王立ちで、女性は持っていた袋を高く引き上げる。
「ちょっいやぁ助かります棗(なつめ)さん!」
管原はひらに頭を下げながら棗と呼んだ女性に駆け寄った。



棗はきっちりしたキャリアウーマン的スカートスーツ、綺麗な黒髪を肩下で左右で巻いて、気の強そうな端正な顔立ちをしている。

相変わらずダレた服装と顔の管原は棗からビニールの袋を受け取ると、中からサンドイッチを引き出した。


「それにしても棗が来てくれるとはなー、管轄(かんかつ)変わったのか?」

ここで会うのは久しぶりなのか、管原は親しげに笑う。

「ま、ね。それに本部から色々責っ付いた事言われて、弾に質問てがらってやつよ」

「質問?」
サンドイッチをかぶりながら、管原は今まで見ていたであろうカルテへと目を落とす。


「拜早(あずさ)君、保護出来たそうね」

「あぁ…ちゃーんと科学捜査班が確保したぜ」
「女の子の被害者が出たって聞いたけど大丈夫なの?」

棗は淡々としながら、診療室の適当な椅子に腰掛けた。

「勿論。俺様の腕を知ってるだろ〜テクニシャンだからな」
「ちょっと、あんたまさかだと思うけどその子に手出してないわよね?」
フフンと作業を進めながら笑う管原に棗は怪訝そうな顔をする。
「おいおいあったり前だろーが、俺は棗ちゃん一筋だぜっ」
「悲しい人ね」
管原のモーレツな妙なアピールを棗はさらりと受け流す。

「何よそれ棗ちゃん、俺の愛は届かないのかい?」
「それがホンモノだったら考えてあげない事もないけど」
「ぁらら……まったく棗はかわしが上手いね〜」

お手上げみたくポーズをしてまたカルテを見直した管原だったが、棗は「それはあんたでしょう」と言いたげに目を細めて管原を見やる。


「で?結局その子どうしたの」
「俺からキスした」
「ブッ!!!」
まさかストレートにそんな単語が返ってくるとも思わなかった棗は思わず吹き出した。