―ユージェニクス―

「何…?」

日堀は男の発言に眉を鋭く顰める。

一人は長身で饒舌、一人は眼鏡を掛け寡黙そうな印象を受ける…そんな白衣の男達。

「今から黒川邸に行くんだろ?警察連れて」

「………」


「何で知ってるかって顔だな?今そこで聞き耳立ててたから」
軽く笑って男は屈託ないその目を日堀へ向けた。


「貴方、何がしたいんです…」
「それにしてもまじこんな早く来てくれるとは思わなかったぜ」

日堀の言葉を流しながら、男は嬉しそうに言う。

「……実は黒川のタレコミしたの、俺なんだよね」

「!」

男の発言に一同は目を見開いた。まさかタレコミした本人が自供するとは。

この白衣の男、黙っていればなかなか威圧感がありそうな存在だが、口調がおどけているものだから他の者は戸惑いを隠せない。


「貴方が…あの情報を?」
「あぁ」

日堀も若干動揺したが、それを取り繕う様に中指で眼鏡に触れた。
「…で、そんな貴方が一体何の用で?」

「ちょっと頼み事をしに」
言って、男は奥に座る少女を一瞥する。

「…?」
少女は首を傾げたが男はすぐ目線を外し、再度日堀を見やった。

「黒川邸突入、俺とこいつも連れてってくれ」
こいつ、とは隣の研究員の事である。

その発言に、今度こそ一同は固まった。

「な、それは……」


「ちょっと調べたい事があるんでな。俺らはあくまでも外界の研究所員、スラムの黒川と接触は持てない…だがこの機会になら、便乗して黒川邸に入れるかなーって思ったワケ」

「……」


日掘は黙り込む。
基本的に外界者と保護地区住民の接触は禁止されている。新法案が立った今でもそうだ。
何故なら、保護地区が建てられた多数の理由の一つに、一般人によるホームレスへの暴行、恐喝から彼らを保護するというものがあったからだ。

警察が口を開く。
「…君達は外界の一般研究員だ。例え黒川の屋敷とはいえ、おいそれと同行を認めるわけには…」

「なら、あんた達が見張ってくれればいい」

「なっ…」