―ユージェニクス―

他にこの部屋には灰色の捜査コートを来た警察とマスコミスタッフが数人ずつ、日堀のボディーガードが二人、そして部屋の隅の椅子に一人の少女が座っていた。

この少女は黒川邸の前で日堀の部下が保護した、許可無しのマスメディアの情報提供者だ。
名を、高野美織と言う。

「……住民の為です。買いましょう」
日堀はそう言って警察を見る。
彼らも頷き、マスコミ同士は無言ながら笑みを浮かべ、お互い拳と拳を軽く衝いた。


「あの…」

と、少女が不安そうに口を開く。
日堀は少女に近づいていって、腰を屈めた。


「大丈夫ですよ、買うと言う事はつまり、この映像はメディアに公開されません。証拠物件としてのみ扱わせて頂きますから、プライバシーも守られます」

言って、目尻の皺を深め裏表のない笑みを浮かべた。


少しほっとした少女を見、日堀は背筋を伸ばして今度はマスコミ達に振り返る。

「しかし、民間人を巻き込み危険に晒した事は事実です。マスメディアの方々には多少なりとも責任を取って頂きますよ」

それを聞いてマスコミスタッフは曖昧な笑顔を浮かべ誤魔化した。



「さて……準備はどうです?」
「は、指示があれば既にいつでも…」
日堀の事務的な問いに部下がそう答えようとした…その時、



前触れなく廃屋の扉が開かれる。

「!?」

今此処で外界の者が集まっている事など誰も知らないはずだ。
保護地区の住民が偶然やって来たのか…!?

しかし日堀達の思惑と焦りの裏腹に、現れたのは白衣を着た男二人。

それを確認し、日堀がゆっくりと尋ねた。


「……どなたです?」

白衣着用は此処では研究所の人間に外ならない。

「そー言うなら、おたくらこそどなたですかね」

白衣の一人が嘲笑うかの様に口を開いた。

…確かに、今現状を知らない人間から見れば(現状を知らせたのは観崎と木戸田のみだが)このスラムにこの風体の大人達が集まっているのは不自然過ぎる。

「なぁんて、な」
が、白衣の男はおどけた様に両手を上げた。
もう一人の白衣は何も言わない。

「あんたをつけさせて貰った」