その発言に観崎は、日堀に悟られぬよう一瞬思案顔をした。

「黒川とは……どう言ったタレコミだったんです?」

「主に、自宅へ女子、或いは男子を連れ込み、性的虐待を行っている……等です」

観崎の表情は動かない。
日堀は軽く溜め息を衝いた。

「黒川は外でもその存在が有名です。しかもやる事なす事規模が大きい……実は地区の法律浸透が決定した時、問題点の一つとして彼は捜査の対象となっていたんです」

「…ほう。それが実際捜査にまで踏み切られたのは、タレコミがあったからと?」

日堀の返答にはほんの少しだけ間があった。

「…きっかけは、そうですね。黒川は顔が効きますから、今まで決定的な彼の犯罪話は聞けていませんでした」

そう言ったところで、ふと日堀は観崎を見据える。
観崎は日堀の視線に気付かないふりをした。

…日堀は続ける。

「しかしタレコミがあったという事は、黒川の行いは事実である可能性がある、と取れます。火の無い所に煙は立たない。故に私共の指示で、警察は予定より早く黒川捜査の準備に入ったのです」


「そうですか、とうとうあの黒川さんが……因みにその捜査はいつから?」
観崎は興味があるから尋ねた、という様な声色で聞いた。

が、日堀は作った様な残念な顔を浮かべる。


「実は、マスコミが嗅ぎ付けまして」

「…?」


「元々捜査は来週の予定でした。しかしつい先程連絡がありましてね……マスコミから黒川邸内部の情報を掴んだから、売りたいと持ち掛けられました」


観崎は聡明な顔付きに戻っていた。

この展開の早さ。こうなれば黒川邸捜査は必至……恐らく主の逮捕も。
…となると自分はもう詮索も画策もせず、単なるスラムの傍観者という事で日堀の情報を聞いていればよい。


「こちらが買うかはともかく、黒川邸内部の情報は逮捕の決め手…マスコミとの交渉が付き次第、捜査は実行されます」

そこまで話し、日堀はふと腕時計を見る。

「おっと、長居してしまいましたね。そろそろ失礼させて頂きます、お時間取らせてしまって……」

「いやいや、気にしないでくれ」

すっくと立ち上がる日堀に、観崎は構わないと目を細める。