日堀は眼鏡の奥の目を細める。

「大きく言ってしまえばそうです。そしてそれは此処の人々が必ず戸惑いを起こす」

……此処が正式に法の管理下に置かれるという事は、今まで何事もなく犯罪紛いに行われていたものも規制が入る。


「全三章になる“国民保護地区に関する法律”……第一章、第三節。“保護地区内に関しても同等の法に基(もと)づく”。これからは此処に住む住民も外界と変わらない法律の中で生活して貰います……まぁ、本当は始めからそのつもりだったのですが」
「多忙でお国さんの手が回らなかったのでしょう」

観崎の答えに日堀はニィ と笑って肯定した。

「ようやく保護地区も統括出来ます。観崎さんにはこちらをお渡しさせて頂きます」

ガラスのテーブルに置かれた白い書類の束。

「今後のこちらと保護地区のスケジュール…それから制圧と家宅捜査に関する事も書かれていますので」

「制圧?」
観崎は少し眉を動かした。

「……こんな事を言うのもなんですが、今朝私の秘書官の方にタレコミがありまして」
「ほう…?」
返事をしたものの観崎には話が読めない。

「法律に基づくのなら、犯罪者を先に保護地区から排除すべきだ…というものでした。…と言ってもこれまで刑事法すらまかり通っていなかった地区ですから、法と照らし合わせると少なからず住民の皆さんは犯罪者になっているでしょうが……銃刀法違反とかね」
「まぁ、確かに」
日堀の説明に観崎は苦笑する。

「スケジュールを見て貰えれば分かりますが、地区の住民にはこれから規制を呼びかけます。来月末までには法律の浸透を目指していますが……その前に、過度な犯罪を既に犯している者は逮捕に及ぶかもしれません」

そこで日堀は話を切って、コーヒーを一口啜った。


「……例えば?」
声色を変えずに観崎が問う。


「…色々ありますけどね。先程のタレコミの件で挙げられたのは、黒川大介という男です」