「ふむ…」

日堀は細面な顔に薄い唇。目尻に独特な皺がある眼鏡を掛けた中年の男だ。

彼の役職は内閣府特命担当大臣。

その中で科学技術政策、国民生活、規制改革、消費者行政推進を担当している。
それがどの程度の仕事内容なのかは観崎も内閣に入ってみないと解らないが、仕事柄何度か彼とは面識があったし、食事もした。
自分は国立の保護地区の中にある研究所所長だ。色々と格式張った事もある。

「新法案か……私はてっきり、木戸田君が詳細を伝えてくれるものと思っていたよ」
観崎が微笑むと、日堀は軽く肩を竦める。

「少しスケジュールに手違いがありましてね、こちらへは私が出向くと言ったんです」
この時日堀の顔に微かに疲労が伺え見えた。

日堀はそのまま続ける。
「あぁ、木戸田君には既に話をしてありますので。これからは新法案の元保護地区も動かしていくつもりです」

木戸田とは此処、正式名“国民保護区域トウキョー地区”の取締で、専務補佐公島の上司だ。
直に国から宛がわれたこの保護地区の経営者。
しかし木戸田は木戸田で他に仕事を持つ為、専務取締役の地位に居ながらそれは掛け持ちの職業だ。

保護地区の経営に義務やマニュアルは今まで制定する暇がなかった為に、木戸田は自分の仕事を口実に保護地区に関しては特に配慮をしていなかった。
それを咎める者も、ルールも無かったからだ。

ずさんな管理は保護地区内に外界の人間が武器や機械を持ち込み、欲望のままに生活する者達を生み出した。

…その穴を保護地区に立てられた研究施設所長、観崎が目を付け今の現状に至る。

観崎にとっても保護地区なんかの世界より研究の方が何倍も大事だ。

だから民間人をも研究に利用した……


「民事法、国民保護地区に関する法律…」
観崎が口を開いた。

「確か、保護地区が外界と同等の法の元に置かれる…とありましたかな?」