「…何がおねーさんだ」
拜早があからさまにうんざりしている。
「そんな顔しないでよぉ、アタシ、どっちかって言うとアンタの方が好みなんだから」
言って、峯は手入れがされた爪の先で拜早を指差した。

「! へぇ〜…」
「咲眞…わざわざ俺を見るな」
「峯ってばまたオトコ…」
高城が悲しそうな顔をする。

「…っあんた黒川が好きなんだろ?」
「そぉよ。でもアンタとも楽しめると思うの」
「何を楽しむんだよ…」
「オカマにもモテるんだね拜早」
「うるせぇよ」
半笑いな咲眞を拜早は睨んだが、その様子を見て峯は意外だという顔をした。

「あ〜ら、知ってたの」
咲眞が口を開く。
「黒川のおかげでネコに目覚めたんでしょ?でも今は相手にされてない」
「…いーのよアタシは、黒川様に仕えられてさえいれば」
峯は紫の横髪を耳へ掛けながら一歩進んだ。

「アンタ、結構達観した感じだけど…それがいつまで続くかしらね」
「……」

咲眞も前へ出ようとしたが、拜早に止められる。

「おまえじゃきついだろ、やめとけ」
「でも、拜早一人でもきついでしょ」

咲眞は肉弾戦が不向きだし、ストックの爆弾は峯らと距離を置かなければこちらも巻き添えを食う可能性があって使えない。
そして安易に今距離を取らせてくれる相手でもない。

…だが拜早一人でも二人相手は厳しい。

……どうする?


「…そういえば、アンタ達結局名前教えてくれなかったわよね」
少し笑って峯は二人を見据える。
「折角再会したんだし、教えてくれてもいぃんじゃない?」

「…関根」
「邦浦」
…二人は相手から視線を外さずぶっきらぼうに答えた。

「ピンと来ない名字ねぇ」
さらさら教える気がない少年二人を峯はジト目で見やり呆れる。

ここに居た時、黒川邸の者に名前だけは教えなかった。
茉梨亜がそう忠告したから。
茉梨亜が先に名前を教えてしまった時、黒川邸に染まった様な気がしたから、と。



前触れなく拜早が飛び出した。
目の前の峯に正面から向かい、手刀。