だがこうなってはなりふり構っていられない。

「蓋尻、答える気あるのか?!」
「おやどういう意味ですかそれは」

……蓋尻に脅しは効きそうにない。
かと言って今ナイフで首を掻っ切るわけにもいかない。

「…あんたが喋らないなら大人しく寝てて貰うまでだ」
「……そう上手くいきますかねぇ」

不敵な口調の蓋尻に拜早は怪訝に眉を顰める。
『ジッ』

突然傍で短いノイズが鳴った。
拜早がそれへ反応するのと同時に、蓋尻の片耳に付けられた小型インカムから盛大な声が飛び出す。
『ザッ―ちょっと蓋尻!!茉梨亜、今日は紀一様の所に連れていけばいいのよね?!』


「…!!」

「おや、外部スイッチになってましたねぇ」

なんとも悠々とした態度の蓋尻だが、逆に焦りが見えたのは拜早。

今の声は……
不味い!!

「峯、侵入者です!!茉梨亜は高城に任せ早急にB塔北区二階まで来なさい!!」

瞬間拜早が蓋尻の背に蹴りを入れ、蓋尻は前のめりに勢いよく倒れ込む。
「蓋尻、てめ……」
「ふ……ふふ、屋敷を守るのは執事として当然です」
蹴られたものの首筋をナイフから解放された蓋尻は、内心かなりほっとしていた。

「アナタ、茉梨亜サンを取り戻しに来たんですよねぇ…ワタシとしては彼女が消えた方が喜べるのですが、残念ながら黒川様はそれを望んでおりませんので…」
捻られていた腕を摩りながら、蓋尻は陰湿な笑みを浮かべる。

「黒川様は茉梨亜サンとお子をおつくりなられるそうですよ」


頭に一瞬で血が上ったのが分かった。
段ボールが邪魔する床に、だらしなく座っていた蓋尻の胸倉を鋭く掴み掛かる。
「てめぇ、いい加減にしろよ!!」
「おやおやワタシを睨んでも無駄ですよ、全ては黒川様の望み……」
空いた手で拜早は拳を握りしめた。
嫌悪で拳が震えている。

「ん、どうするつもりですか?ワタシを殴るとでも?けれどそれは意味のない事だとアナタは分かっている筈です」

胸倉を掴まれて首が座っていないにも関わらず、蓋尻は得意気に拜早を見る。
が、ここまで無駄に聡い言い方をされて大人しく拳を諦める程、拜早は大人ではない。

「グハ…ッ!!!」

だから思い切りこの小男を殴り付けた。