両手が解放された女は、どうすればいいか分からないでいる。
「……」
キョロキョロもぞもぞしている女を見兼ねて、拜早は女の目隠しを取り外してやった。

「…!」
視界が開けた女は身体に掛かっていた上着に目を留めるとそれを素早く握りしめ、我に返り目を瞬かせた後、崩れた段ボールの上でヒィヒィ言っている男に気付く。
「…?!」

不思議に思って顔を上げると、初めて見る人間と目があった。

「あ…?貴方は……」

茶の瞳の少年。
彼が助けてくれたのか。しかし……

「あの、誰ですか…?」

黒服でもない、黒川の関係者とも思えないこの少年に、女は疑問符を浮かべる。

「……」
流石黒川邸の女、無理矢理男の相手をさせられていたとしても、頭は冷静に働いている様だ。

拜早はそれが分かるとふい、と女から顔を背ける。
誰と問われて答えるわけにもいかない。
それに……

「あっ待って…これ、貴方のでしょ?」

女は拜早に掛けられた服を差し出したが、拜早はますます女から目を逸らした。
(あまり近づかないでほしい…)
ほのかに頬が赤い。

「あの、服があれば着て欲しいんですけど」

「え?」

女はきょとんと疑問符を飛ばした瞬間、ハッとして自分を見直す。
「あっごっごめんなさい」

女は段ボールを引っ掻き回して衣服を探している様だったが、拜早はここから出たくてたまらなかった。
…けれど助けた手前、またこの男と二人きりにしてしまうのも頂けない。


「…お待たせしましたっ」
意外と早く女は服を纏い、拜早に上着を渡そうとする。
「あっでも…握りしめちゃったから汚れているかも…」
「…べつにいいです」
どうにも相手の顔を見れず、拜早は上着を受け取りなんとなくぺこりと頭を下げた。

「あの…ありがとう」
女は綺麗な声をしていた。

「…いえ」

「貴方は…誰?」


女の方から拜早の目を見られたので、多少拜早は戸惑う。

が、拜早も遠慮がちに相手を見、少し苦笑して一言答えた。

「…内緒、です」