「立てるぅ?」

あずさが差し出した手の平を、美織はゆっくりと握り立ち上がる。

「安全な所まで送っていくよっあ、その服はあげるね〜」
美織に掛けた上着を指してあずさは言った。

「え、あ…送ってくって…出口分かるの?それに、あずさはどうするの?!」

こんな屋敷にあずさを残して行くわけには……

思わず美織は掴む手に力が入る。

「あずさ、やっぱりこんな所居ちゃ駄目だよ!それに彼氏さんも来てくれたんでしょ?!一緒に……」

美織はそう食い下がったが、あずさは首を横に振って拒否をした。

「あたしは自分からここに来たんだよ〜だからいいの。ねっ」

「……」

あずさが少年に振ると、少年は美織を一瞥して被っていたキャップを更に目深にする。

「…状況は?」
あずさは少年に近寄り小声で尋ねた。


「…今この辺りに人はいない筈だ。出会った奴は片っ端からのしたし……交代に来たカメラ監視員も全員片付けたから、暫くカメラが起動してない事に気付かれないと思う」

と、説明し終えた少年は舌打ちする。

「ったく、なんで人助けに巻き込まれてんだよ!裏口なんて逆戻りじゃねーか」

「煩いな、拜早はこの子放って行ける程非道なんだ?泣けるね」

「そっそーいう事言ってんじゃねーよ!大体おまえ……」

「……??」

あずさと少年が小声で言い合いをしながら小突き合いをしている様子に美織は首を傾げた。


「さっ行くよぅ美織ちゃん!」

「は、はぁ…」








部屋を出て、周囲を警戒しながら廊下を走り、階段を下る。


「……」

これで黒川邸から出る事が出来る……

美織はまだ焦燥的ではいるものの、安堵した気持ちが現れていた。

しかし、本当に自分だけ逃げていいのか?

あずさは本当にここで黒川の相手をするつもりなのか?
ではこの少年は一体……