「茉梨亜、気をつけろよ。こんな時間の外には変なヤツがうろついてるかもしれんしな」
とりあえず自分の状態を整えて、管原は茉梨亜を戸口まで送る。

「だいじょーぶよ、あなたより変なヤツなんていないわ」

「そしてたまに見せる俺様の真面目な横顔……惚れるなよ」

「それに白の怪物も捕まった事だしね!捕まえた人達皆同じジャンパー着てたから、たぶん事件専門の警官だと思うの」

たまにスラムで範疇外の凶悪殺人等が起こると、外界から武装警察が来る事があるからだ。

「あぁ……」

茉梨亜の考察に、管原は気のない返事をした。


「ときに茉梨亜、おまえに“あなた”って呼ばれると俺様旦那みたいだな」

「んー…じゃあ管原サン」

上目で茉梨亜はそう言ったが、管原は指先を横にふる。

「弾くん(はーと)」
「……管原サン」
「弾くん(ハァト)」
「……弾くん(真顔)」
「よぉし、やっぱそっちの方がしっくりくる!」
「そーかしら?なんで」
「呼ばれ慣れてたからな」
管原はニカッと笑った。

「ふーん…あ、肩の治療してくれてありがとね、全然痛くないよ」

「そりゃ俺様のテーピングは一級品だぜ?また怪我したら俺が優しーく見てやるよ」
「ん、遠慮しとく」
茉梨亜は笑顔で言ってのけた。

なんだかんだでこの管原には、取っ付き易い印象を覚えた……この男が図体に似合わず気さくだからだろうか。

……キスはされたもののそれ以外には自分に全く触れようとしなかったし、強引な人物というわけでもないらしい。

変な男なのには変わりはないが。


「じゃーね弾くん、また遊びに来てもいい?」
「おまえも変わったヤツだな、散々俺を落としといて」
「落とし甲斐があるんだもの」
「アッソウ」

管原はさりげなく大人のプライドを砕かれた。




「ばいばーい」

去っていく茉梨亜の後ろ姿を見ながら、管原はなんだか懐かしそうな、それでいて複雑な顔を浮かべていた。


「あれが茉梨亜…なぁ、世の中不思議過ぎる。………ナンバー445トラストブルウム、まさかこんな普通に会えるとは」