「これから行かなきゃいけない所があるんだ…すぐそこだから。ありがと…咲眞、拜早」

二人から離れる様に、またどこか急いている様にシティリアートは細い足で走りだす。


「ほんと、ありがとうっ」

一度振り向いて、大きく礼を言ってすぐその姿は物影に消えた。


「……まじで大丈夫か?あいつ」

「ねぇ、拜早はシアに会った事あるんだっけ」

シティリアートが消えた先を見ながら拜早が眉を顰めていると、咲眞がそう訊ねてきた。

拜早が肯定すると、そう…とだけ言う。


「シア、何で僕が邦浦咲眞だって知ってたんだろう…」



それに対して、拜早には予想がついていた。

自分と咲眞の名前を知っていて、且つシティリアートと名乗っている事。

…咲眞は、研究所の誰かからトラストブルウムと呼ばれていた。

そして自分もそういった妙な名を持っている…


「咲眞、あいつはたぶん…」

「…?」













聳え建つ研究所、外来用自動扉の前には既に出迎えの者達が待っていた。


「やぁ、久しぶりだねシティリアート」

訪れた子供を穏やかに迎えたのは、ロマンスグレーの髪にスーツを違和感なく着こなした研究施設所長、勧崎棋市郎。

そして付き添いは専務補佐公島。

「おや…いやに汚れているけれど、何処かでこけたりしたのかい?」
シティリアートの身体を気遣ったのはデータ収集班班長、金髪にピアスの塔藤永礼。

子供を迎え入れるにはなかなかの顔触れだ。


「はい、そこで盛大にこけてしまって…でも心配いりません」

子供染みた表情で子供らしくない体裁を取り繕い、シティリアートはにっこりと笑顔を作った。



鉄の城の中で時は進む。

その白が白に近付く程、希望と成功にも近付いている。

そう、強く確信して。








拜早・咲眞編 ―終―