涙花‐tear flower‐【短編】

「今年が、丁度10年目なんだ。」


そう言って、パタンと図鑑を閉じる。


「10年って長いんだけどね。でも、もう経っちゃったんだ……。」


長い長い10年……

それは、涙花が涙を待っていた月日でもあり

フィルが、1人ぼっちでいた時間でもあった。


「泣けなかったけど、見てみたかったな……涙花。」


フィルが呟くと、ティアは勢いよく立ち上がった。


「まだ間に合うよ!」


拳を握り、フィルに力説する。


「だってまだ枯れてないでしょ!?」

「そうだけど……でも、僕は……」


諦めの色を見せるフィル。

するとティアが言った。


「きっと、フィルが泣けないのは、“楽しい”を知らないからだよ!」

「たの、しい……?」


思いがけない言葉に、フィルは首を傾げる。


「フィルは1人でも寂しいって思わないんでしょ?」

「だって、1人が当たり前で……」

「そうだよ!当たり前だからわからないんだよ!!」

「?」


ティアの話が上手く飲み込めず、フィルは更に首を傾げた。