「秀一さん、お帰りなさい」

「ああ、ただいま」

 母と共に父に駆け寄りながら、僕は大きな違和感を覚えた。
 見慣れたスーツ姿の父。しかしその顔には、生まれて始めてみる柔らかな笑みが浮かんでいた。

「……お帰りなさい」

 母の手をぎゅっと握りしめ、父の様子に戸惑いながら、僕は言った。
 父はやはり笑顔で頷き、その後の会話を母が引き継いだ。

「出張はどうでした?お疲れでしょう。早くお着替えになって、ゆっくりして下さい」

「ああ。その前に、君たちに紹介しておきたい」

「あら。どなたかお招きしたの?」

「──さぁ、おいで」

 父のその言葉を合図に玄関の物陰から姿を表したのは、白いワンピースに身を包んだ、僕と同い年位の少女だった。

「潤。今日からお前の姉弟になる子だ」

 二人が並んだ姿は、僕には何故かとても異様な光景に見えた。
 幸せそうな父。それとは対照的な暗い表情の少女の顔は、玄関口から差し込む逆光のせいでさらに陰を帯びていた。

「よろしく、お願いします……」

 父のズボンの裾を掴み、たどたどしく口を開いた少女の声は、開け放たれた玄関から家の中に流れ込む烈しい蝉の声にかき消されそうだった。