彼はその詩を見て言った。
「ここに出てくる詩人とは、彼女のことだね。」

「はぁ…私にはそこそこ年のいった男性の方という印象ですがね…」
S氏は、素直に言った。

「だが、ここには誰とも書いていない…。読み手にイメージを任せている様にも見えるが…。彼女はね、そこにある物や空間をありのままに表現する事ができるんだよ。この文章からも出ている。」

「ありのまま…それならば他の人にもできそうですが…」

「できそうで、できない。これがなかなか難しい。むしろ華美に飾り立てて惹きつける方が簡単だろう。それを最小限にそして自然に書くと、一見地味に見えてしまう。
しかし、彼女が書くと飾りも何もいらないほどの真実の魅力が見事に描き出されるんだ。不思議とね。」

「それが本当なら、確かにすごいですね…いや、私にはそこまでわかりませんが…」

「それでも、良い物は残っていくだろう」

「そうですか…。先生がそこまでおっしゃるのなら。」

おわり