そうだ、嘘をつこう。


篠原龍斗には晩ご飯のことは伝えないで、母さんには今日はアイツ用事あるらしいよーとでも伝えておけばいい。


あたしってば頭いー!


…なんてことも考えたけれど。



「あ、龍斗くん。今日うちで一緒に晩ご飯どう?」


「晩ご飯?食べる!おばさんのめし久しぶりだし」



玄関先で交わされた母と奴のこの会話に、どうすることもできないことを思い知らされた。


つーか母さん自分で聞くならあたしに言わないでよ…!


こいつもなんか楽しそうだし。


ちらりと横を歩く男を見上げると、その楽しげな瞳とばっちり目があった。



「なに?」


「なんでもない」


「ねえわけないじゃん。なんだよ、言えよ」


「うっさいなーほっといて」


「ああ?」



あたしの言葉に低く唸る篠原。


だけどしばらく沈黙すると「ま、いいか」と話をかえた。


珍しい…。

まあ変に脅されたり襲われたりするより全然いいや。


…この時あたしは、もっと篠原の珍しい行動を気にかけていれば良かったとあとで後悔することになるなんて少しも考えていなかった。