数件の大きな本屋と小さな古本屋を見て廻った後、
近くの植物園に行った。
移動の度に自宅へ電話を入れる彼女を見ていると、箱入りの度合いが伺える。

植物園での時間、兄妹(きょうだい)のような距離感に戸惑ってしまったが、
彼女は廊下でのいつもの感じは変わらない。

(梨華はどんなつもりなんだろう)
僕はそんなことを考えていた。

笑ったりふくれたり
時折見せる様々な表情の彼女に、
いつしか惹かれていた事に
この時の僕はまだ気づいていなかった。

帰りの電車を待つホームで
また自宅に連絡を入れる彼女の顔が青ざめていた。

「お母さん?お父さん帰ってきた?」
既に門限の五時をまわっていた。

「中米さん一緒でしょ?ちょっと替わって」
電話口から母親の声が漏れて聞こえた。
(やっべーな)

「中米君に替わって欲しいって」
そう言って公衆電話の受話器を渡された。
「はぃ、中米です。遅くなってすみません」

「こちらこそご迷惑かけて、疲れたでしょ、気をつけて帰ってきて下さい」
叱られると思っていたのに労われた?
どうなっているんだ?


そうか、もしかしたら
本当に僕と居るのかを確認してるのか…?

確かに彼女は頼りなく見えるが、
芯はしっかりしていて、何より真っ直ぐだ。

こんな彼女でも疑われたりするのは、
親の取り越し苦労なのだろう。


よっぽど僕の方が疑わしい。


無事彼女をバス停まで送り届け、
途中、理未子の部屋の電気が点いているのを確認しながら
僕は一人歩いて家へ向かった。