夏の暑さが日増しに強くなる中、梨華と二人、神保町にいた。

とにかく本が好きな彼女は、
一度でいいから本屋街に行ってみたいけど
一人ではなかなか行けない。
と少し大袈裟な事を言っていた。

そこで彼女の母親からは信頼されている(らしい)
この僕に白羽の矢が立ったわけで、
滅入るほどの大役だった。

彼女の父は土建屋の社長で、
娘の門限は5時と厳しいが母親はかなり理解のある人のようだ。

それでも、一度家に連れて行かれることになった。
(結婚の申し込み気分だよ)

彼女の父親が現場で働く晴れの日に、それは決行された。

夕方、1600まだ日は高い時。
案内されるまま事務所に隣接する自宅に忍び込むかの如く裏口の玄関へ通された。

ごく普通の玄関に少しほっとした。
刀や甲冑があったらどうしようかと思っていたくらい緊張していた。

彼女の二階の部屋は簡素で広く、
隅の方にちょこんと勉強机が置いてあるだけだった。

部屋の真ん中に小さなちゃぶ台が置かれ、
お菓子と冷たいジュースが用意されて、
しばらく二人で話していると母親が上がってきた。

二人の間にちょこんと座り話に混ざってきた。
(まるで面接だよ)

はじめはかなり緊張したが、
至極、気さくな人で彼女とよりも母親と長い時間喋ってしまった。

これが良かったのかすっかり気に入られたようで、
明後日の神保町行きを任されたのだ。
夜7時をまわった頃、
夕飯の誘いがあったが
父親の帰りが気になり断ってしまった。

ここで帰宅してきたら本当に面接になるとこだ。