それを見た夫婦は落胆して、けれどどこか安堵した表情を浮かべる。そしてまた枯れることない涙の雨を降らせる。妻は夫の、夫は妻の背中をしっかりと抱いて。


それが蒼空音の胸を痛める。二人の目に彼女が映っていないことが幸い。蒼空音は紙をそっと机の上に置き、冷たいベッドを見つめた。



自分は無力だった。最悪の事態を防ぐ鍵は自分が握っていたのに。



蒼空音は二人に軽く頭を下げた。二人が気付かないことを前提に。それから早々と二人の横を通り過ぎ、階段を下り、玄関の重たい戸を開けて外に出た。




最後まで蒼空音の口が開かれることはなかった。