あれから30年──マークはあのあと別の仕事に就き、今は仕事も辞めて妻と郊外で静かに暮らしている。

「……」

 マークはリビングの窓からレースのカーテン越しに外を眺めたあと溜息を吐いてソファに腰掛けた。

 国の仕事を辞めて30年……ようやく僕の監視は解かれたらしい。

 確かに、あの時の僕の言動は周りから見てもおかしかったと思う。

「あの襲撃に関わっていたかもしれない」という考えになっても当然だろう。

 窓の外で小鳥がさえずる。マークはその可愛い鳴き声を楽しんでいた。

「あら、どなた?」

 玄関の方から妻の声がする。客か。

「ご主人はいらっしゃいますか?」

 聞き慣れない青年の声だ。僕の知り合い?

「ええ、リビングにいるわ」
「お邪魔させてもらっても?」

「どうぞ。私はこれから買い物だからゆっくりしていってね」

「ありがとうございます」
「!」

 おいおい、僕を1人にするのかいローラ。僕はその客の声に聞き覚えは無いんだけどな……と思いながら静かに目を閉じて小鳥のさえずりに聞き入った。