「買いに行かなくてもあるよ?」
「いらない」
──・・・いらないよ。
あいつは、お母さんは、自分のために作ってるんじゃない。
櫂兄と、『お父さん』のために作ってるんだ。
「…おいしいよ?」
「もう忘れた」
家庭料理の味なんか忘れた。
記憶にない。
「涙、一緒に食べよ?」
「……いらない」
櫂兄が言う言葉をスルーして、階段を下りた。
キッチンに立っているお母さん。
見慣れない格好。
横目でチラリと見つつ、玄関の金のドアノブに手を掛けた。
外はまだ明るかった。
なんせまだ六時過ぎ。
街灯もついていない。
1人、コンビニに向かう。


