Symphony V

「じゃねー!」

里香と別れて、私はバイト先のコンビニへと向かった。家から案外近くて、ちょうど学校からの帰り道にある。

暑い夏の陽射しの中を、私はえっちらおっちらと自転車をこいでいく。

細い道を、車や歩行者に気をつけながら、バイト先へと急いだ。


「お疲れ様でーす」

コンビニの中に入り、制服の上から、コンビニのマークがプリントされた、少し大きなシャツを羽織る。タイムカードを押して、お店へ出る。

夏休みに入ったからか、いつもより少しだけ、お客さんの数が多い気がした。レジに入っていた、仲のいいパートのおばちゃんに声をかける。

「おばちゃん、お疲れ様です」

「あら、唯ちゃんお疲れ様。今日は早いね」

にっこりと愛想のいい笑顔でおばちゃんが返してくる。


「今日は終業式だったから早いんだー。おばちゃんは今日は17時までですか?」

「そうよ。唯ちゃんはこんなに頑張ってバイトしてるってのに、うちの馬鹿息子ときたら…ほんと、見習わせたいわ」

軽くおばちゃんがため息をつくと、唯はくすっと笑った。

「巧くんは元気ですか?」

おばちゃんには私と同い年の息子がいる。中学校時代、実は同級生で、バイトで何度かおばちゃんと会って話をしているときに、そのことを知った。

「元気よー。で、ほら。明日から夏休みでしょ?友達と旅行に行く!とか言っちゃって。お金ないのにどこにいくつもりなんだか」

頭を軽くかしげているおばちゃんが少し面白くて、思わず唯はくすっと笑った。

「おい!だべってねーでさっさと会計しろよ!」

「はい、すいません!って…なんだ、巧くんか」

反射的に謝った後、少しだけはぁ、と唯はため息をついた。

「なんだとはなんだ!客に向かって!」

「客である前に同じ人間でしょうが。そんなにえらそうにできるほど、あんたは偉くないんだからね」

おばちゃんはふんっと鼻を鳴らして、巧が持っていたペットボトルを奪い取ると、スキャンしてお会計をする。私はその隣で、ペットボトルにシールを貼った。