「…あれ?唯ちゃん?」

呼ばれて振り返る。そこには自転車に乗った康之の姿があった。

「あ、康之さん。どうしたんですか?こんな時間に」

不思議そうに唯が聞くと、康之は笑った。

「いやいや、それはこっちのセリフだよ。俺はサークル仲間との飲み会の帰りだけど、唯ちゃんは高校生だろ?こんな夜遅くに出歩いてちゃだめだろ」

言われて、確かに、と唯は苦笑した。

「今帰りなの?」

聞かれて唯は躊躇いつつも頷いた。

「あ、わかった。門限過ぎて、帰るのが嫌なんだろ」

クスクスと笑う康之に、唯は苦笑いを浮かべて、まぁ、と答えた。

「家はバイト先の近所だったっけ?」

聞かれて唯が頷くと、康之はニコッと笑った。

「乗りなよ。送ってあげるよ」

「いや、そんな」

「遅くなるほど、ご両親も心配するよ?ほら、乗って乗って」

康之は事件のことを知らないのか、それとも唯に結び付いていないのか、気づいている様子はなく、いつもと変わらない態度で、いつもと同じように優しかった。

「ありがとう…ございます」

康之のその優しさに、少しの泣きそうになりながら、自転車の荷台に腰かけた。

「じゃ、行くよ?しっかり捕まってなよ」

そう言うと、康之はゆっくり自転車を進めた。