Symphony V

「それにしても巧くん。中学校のころに比べて、かっこよくなってるな」

そういうと、おばちゃんは首を傾げながらそうかしら?と呟いた。

中学時代は明るくて元気で。
スポーツができて。

人気者になるには十分な要素が含まれていた。

高校生になったからか、少しだけ身なりに気を配るようになって。
おしゃれをすることを覚えて。

なんだか、制服を着ていたのに、中学時代の巧とは、少し違う感じがして、ほんの少しだけ、胸の奥でとくんと音がした気がした。

「ま、最近は何を色気づいたのか、いろいろワックスだのなんだのって買ってきてるみたいだけど。私はいまいち…どうもね」

苦笑いを浮かべるおばちゃんに、唯は笑った。

「男の子でも、やっぱり気になるようになるもんなんですね」

正直、あまりおしゃれだとかに興味がない。
そりゃもちろん。可愛い服を着てみたいし、お化粧だって気になる。

でも。

「おしゃれってお金かかりますよね」

唯の一言に、おばちゃんは笑った。

「何言ってるの。まだ若いうちから。おばちゃんくらいの年になる頃には、びっくりするくらいお金かかるようになってるんだから」

その言葉に、唯はえぇ?と少し驚いたような表情をする。
が、確かに、母親はいろんな化粧品をたくさん買っていて、時々、その買い物についていっては、値段に驚いていた。

「唯ちゃんは、お化粧しないの?」

聞かれて少し苦笑いを浮かべる。

「興味がないわけじゃないんですけど…ほら、化粧品ってお金かかるじゃないですか。それに、お化粧品よりは、今は別に欲しいものがあって…」

そのまま、しばらくの間、おばちゃんとお喋りをしながら、バイトをしていた。あっという間に、おばちゃんの上がりの時間が来て、次の人と交代になる。

いつもと変わらない毎日。
そんな日がずっと、これからも続いていくんだと思っていた。